ぐだぐだ言い続けているが、金沢21世紀美術館には無事入場できた。
いったいなにをどういう順で観て行けばいいか全くわからないし、それに必要な予習もしてこなかった。
で、T氏のアテンドのまま、プールを観ることにした。
プールはもともと入場制限がされているようだが、この感染症対策下でさらに少人数での見学を余儀なくされていた。
しかし、T氏とH氏のスケジューリングが秀逸だったため、ほとんど並ぶこともなく、プールを観ることができた。
そんな、僅かな待ち時間の間も21世紀美術館はアトラクションを提供してくれていた。
監視員のお姉さんが年代物のPHSを何度も確認していた。
私はてっきり、このPHSがなにかアクションを起こせば次の入場で入れるものと思った。
が、なかなかPHSはならないので、
「そのN○C製のPHSが鳴れば入れるんですよね?」
とお姉さんに聞いたところ、
「いえ、時間を見ているだけです、そろそろですね」
とのことだった。
先入観や権威を打ち消し、今や希少になったPHS端末を時計として利用する、またそれを素っ気なく回答する、まさに現代アートだ。
私は、この先に待ち受ける様々な刺激に胸を膨らまさないわけにはいかなかった。
そして、その「作品PHS」が時間を音もなく告げ、前の人と入れ替わりに我々(3名)と他の人たちで入場した。
そもそもプールにはあまり期待していなかった、そしてあまりにも呆気なく入れたことが、私のプールへの期待感をさらに押し下げていた。
だが、私はプールに入った瞬間、雷に打たれたような感覚に陥った。
なんと、本当にプールの底だったのだ。
私は無意識のうちに、その空間で泳ぎ始めた。
頭の中で、ではなく実際に平泳ぎの動きを開始したのだ。
夜のため、水面は暗く、奈落へ吸い込まれそうな気持ちになり、溺れないようについつい泳ごうとする観念が私を捕らえた。
まさにプールだ。
T氏、H氏も楽しんでいた。
同じ組で入ってきたアベックなどの人たちはインスタ映えしそうな写真を撮って先に出て行った。
貸し切りになったプールはいよいよプールそのものになったのだ。
(つづく、とはおもう)