タヌカーであるBMW116i(E87)だが、とにかく走らなかった。
ある雨の日に中央道の長坂IC付近を名古屋方面へ向け走っていた時のことだ、後方からホンダフィット(2代目)に煽られたのだ。
私は走行車線にいたが、私の後ろをピッタリとついてくる。
アクセルを目一杯踏むのだが、1.6Lエンジンは音ばかり立てて全く加速しない。
車重の割にエンジンが非力なのだ。
フィットは何を思ったのか坂道を上り切るまでずっと後ろにいた。
関越道を塩沢石打ICから合流した際にも、非力さを痛感した。
制限速度までなかなか加速しないのでスポーツモードへシフトを変えてアクセルを踏みつづけていたら、速度は全然上がらないのに、回転計がレッドゾーンまで行ってしまった。
仕方がないからシフトを戻したのだが、回転が下がるまでアクセルを踏めず、高速でとろとろしてしまった。
曲がる、止まるにも癖があった。
まず、なかなか止まらない。
ブレーキの効き始めがブレーキの深いところにあって、そこまで踏み込まないと制動が来ない。制動がかかり始めたら、一気にブレーキが効く感じで、交差点での停車や急制動対応の時などドキドキした。
あと、なかなか曲がらない。
E87のパワステは電動ではなく、排気によるものだった。
ハンドルは速度が上がると軽くなり、車庫入れなどの時はパワステかと疑うほど重くなった。高速のインターチェンジで合流の前に半円を描くようなカーブでうっかり速度をあげると、遠心力にハンドルが持っていかれ、外側に流されてしまう。
同じく、高速で轍にハンドルを取られるようなことがあった。通常の轍であれば走行する方向にグラグラ流れるだけなのだが、車線を消したような凹みのようなそれだと、ハンドルが道路のない方へ向かってかつての車線、今は走行できない路肩の方向にとられてしまう。
そして燃費も酷かった。
高速走行がメインだとリッターで15キロを超えるが、夏の市街地で走行となると8キロを切ることもあった。
非力なのだが、重量バランスの関係か燃料タンクは50リッター以上あり、満タンにしたら重みで加速が鈍くなった。
ランフラットタイヤの影響か、走行音もガシガシと入ってきた。
ジェームス・メイがトップギア(エピソード5-9)でこの116iに試乗している。
安全(低速)運転のジェームス・メイ氏をして、走りが良くない、と言わしめたクルマだった。
それほど走らなかった。
ジェレミー(パワー)が、116iの価値は「・・・」だと言っていた。
まさに、その通りだと思う。
では、価値がなかったのか?
いや、パワー氏が言う「価値」以外にも、私たちには価値があるクルマだった。