私は子供の時に読んだ、もりたろうさんのじどうしゃ、という絵本のあらすじをたぬさんに話した。
もりたろうさんという郵便配達人が長年の給料を貯めて、オンボロのクルマを買い家族に会いに行くのだが事件に巻き込まれてもりたろうさんかもりたろうさんの愛犬が解決に一役買うのだ、しかしその解決の際にオンボロクルマを水没させてしまい、もうクルマに乗れないと悲しそうな顔をしている時に、事件解決のお礼に新しいクルマをもらってめでたしめでたし、と言った感じの話だった。
私は、そのあらすじをたぬさんにしたが、たぬさんは、それはどうでもいいので中古車を見てみて予算が足りなかったら諦める、ということにしよう、と提案してきた。
私は勝どきにあるセンターに試乗の申し込みをした。
116iにはバーベキューグリルが詰めることも確認できたが、残念ながらショールームには私たちが購入できる手頃な116iはなかった。
営業担当の人が、近いうちに台場で商談会があるから、その時に見にきて、と提案してくれた。
私はあまり期待していなかったが、後日、案内が届くとそのハガキに記載された「来場者プレゼント」に釣られたたぬさんが、早く商談会に行こう、と言い出した。
私たちは台場まで電車とゆりかもめを乗り継いで出かけていった。
そこに先日の勝どきで対応してくれた営業担当者の人が待っていた。
外苑前も勝どきも同じ会社のはずだが、新車と中古車で異なるからか、外苑前で応対してくれた人とこの勝どきで応対してくれた人は全くキャラが違っていた。
どちらも不快な印象は微塵もなかったが、外苑前がスマートなシマウマという印象だとすると、勝どきはシュレーターペンギンという感じだった。
彼はペンギンのようにペタペタと走り込んできて、私たちへの挨拶もそこそこに会場の隅っこまで私たちをペタペタと誘導していった。
そこには、BMW116iが何台か停まっていたが、その一番端の青色のクルマをシュレーターペンギン氏は指した。
5年落ちで走行距離1万キロ足らず、
価格は「1XX万円」だった。
ペンギン氏は汗をかきながらペタペタと説明を始めた。
助手席に座った時に、たぬさんが、
「これにしよう」
と言って、初めてのマイカーは決まった。
「商談中」と札がつけられ、手付け金を払いその日は会場を後にした。
ちなみにクルマの購入費用は全てたぬさんが出したので、正確にはマイカーではなく、タヌカーということになる。
そう言った事情もあり、我が家のクルマは、風雲たぬき号と呼んでいる。
数週間後、
初代、風雲たぬき号は営業担当のペンギン氏が直接納車してくれた。
彼は、我が家のガレージを見て、
「これだと3(シリーズ)までが限界だと思います」
と言い残してペタペタと徒歩(そして手ぶら)で帰っていった。