試乗申し込みができないトヨタ、イケてないスズキでがっくりきた私たちはクルマ選びを一旦中断し、新居に設置する家具選びをするため有明の家具店へ出かけた。
この家具店を仮にO家具と名付けよう。
このO家具にはジェネリック品が扱われていた。
ジェネリックは、合法なのか脱法なのかはわからないが、違法ではない方法で過去の名作を模倣した品物だ、と思う。
私は、バタフライチェアかバトリョ・ベンチを狙っていたが、ジェネリックでも予算オーバーだった。
結局、O家具では天童木工のテーブルだけ購入した。
ダイニングチェアとソファが決まらず、外苑前の家具店を見に行くことになった。
この家具店を仮にK家具と名付けよう。
私がこのK家具で狙っていたのは、CABチェアだ。
以前八重洲にあった、B美術館に設置されており、年間パスで訪問してはモネの睡蓮前でこのCABチェアに身体を委ね、平日日中のひと時に絵画と眠りを楽しんだものだ。
B以外にも竹橋のK美術館にもCABチェアがあったのだが、K美術館のは公設だからか肘掛けがなくB美術館が私設だったからか肘掛けがついていた。
そんな美術館での思い出を巡らしながらK家具店へ訪問したが、またも予算の制約でCABチェアを諦めることになる。
なんと1脚20万円ほどしたのだ。
さっきWebサイトでチェックしたら30万円を超えていた。今にしたら買った方が良かったのかもしれない。
結局、CABチェアよりも大幅に安いダイニングチェアとソファをK家具で決めた。
この椅子の表面の生地は日産キューブのシートとコラボしていて同じ素材だと言うことだった。
私はたぬさんに、キューブがあったね、と言ったが、たぬさんは
「シンメトリじゃないからいや」
とのことだった。
ちなみに、日産キューブはとっくに廃盤となったが、キューブコラボの生地で包まれた家具は購入から10年以上たった今も健在だ。
K家具を出た後、私たちは帰路についた。
私は外苑前からさっさと地下鉄に乗りたかった。
もう少しで地下鉄の入り口というところで、たぬさんが、
と言った、ん?リブロ(本屋)しか見えないよ、と私は返したが後の祭りだった。
「BMWはまだ見ていない、ちょっとのぞいていこう!」
とたぬさんが言った。私は嫌な予感しかしなかった。
仕方がないのでショールームで、一番安いクルマに試乗させてください、と申し込んだ。
出てきたのはBMW116(E87後期モデル)だった。
当日、私はクルマの運転は想定していなかったので、MBTシューズを履いていた。
車内で靴を脱いで靴下足で運転することになった。
外苑前から信濃町の大学病院横を抜けてまた外苑前に戻ってくるコースを試乗した。
走り出して5分もしないうちに助手席から寝息が聞こえた。
たぬさんが寝始めたのだ。
1度起こしたが、また寝初めた。2度目に起こすのは面倒だったのでそのままにしてショールームまで走った。
到着した際に目覚めたたぬさんは笑顔だった。
「これがいいたぬ!」
一応、見積をとったが完全に予算オーバーだった。
BMWは高いし、高いだけあって試乗すれば欲しくなる、と踏んでいたのでなるべく避けていたのだが、たぬさんはこの試乗でBMWが気に入ってしまった。
が予算が足りない。
たぬさんが、
「じゃあ、クルマはやめておこうか」
と言ったが私は、
今クルマを諦めたら一生買わないと思う、
むかし、絵本を読んでいつか自分のクルマで出かけるのが夢だったんだよ、と話した。
私は子供の時に読んだ、もりたろうさんのじどうしゃ、という絵本の話をした。