私のことを知っている人は知っているかもしれないが、
私はへそ曲がりな方だ。
ここ数年は、過去のへそ曲がりな考え方に後悔することが多い。
それは、高級品と安物の違いについてだ。
道具について私は長年、
「弘法、筆を選ばず」
という考え方でいた。
技術があれば、道具にこだわる必要はない、
道具にこだわるよりも、技術や創作の中身にこだわるべきだ。
なんて考えていた。
そんな考えが最初に揺らいだのは10年ほど前だ。
新宿の中古カメラ店で「コンタックスT3」という機種の難あり品を23,000円ほどで購入したときだ。
いまから10年前だから、2010年頃だったかと思う。
新製品として発売されたのが2001年で発売当時98,000円だった。(今調べた)
いわゆる高級コンパクトカメラだ。
それまで使ったことがあるコンパクトカメラは、
新品でも3万円程度の「フジカルディアミニティアラ」というコンパクトカメラが最高級品だった。
その、フジティアラの新品並みの価格で(元)高級品を手に入れた。
難ありというのは、レンズの蓋が閉まりきらない、というもので、他の機能には問題はなかった。
今から振り返ると、フィルムカメラが投げ売りされていたのかもしれない。
以前なら、憧れだけで購入しなかったカメラだが、
手軽な価格であること、
フジティアラが壊れてしまっていたこともあり思い切って購入することにした。
購入後フィルムを入れ、試しに撮影し現像から上がってきたポジフィルムを見て驚いた。
水々しい植物やふわっと流れる都市の風景などが写っていた。
写真の腕が二段ほど上がった気がした。
フジティアラはプラスチックレンズも混用したコントラストが強めのリーズナブルなフジノンレンズが搭載されている。
コンタックスT3は、ドイツカールツァイス設計のゾナーレンズが搭載されている。もちろんレンズはオールガラス製だ。
シャッターボタンは人造サファイアでできている。
価格差が4倍違いでここまで違うのか、と感心した。
これ以降、カメラについては買える範囲でなるべく高級なものを選ぶよう心がけるようにした。
それから数年して、
次に高級品と安物の違いを痛感したのは、ペンだ。
以前からサイン(調印)用に1万円クラスのボールペンを持っていた。
営業職として、顧客に発注書や契約書へサインしてもらうための演出道具で、自分自身で使用したことはなかった。
「普段使い」は150円のゲルインクペンだった。
ノートでもテーブルナプキン、プラスチックにも書き込めるのが気に入り愛用していた。
ある時期、役所でミーティングすることが増えた。
役所というのは、一つの会議を取ると1時間程度で終了するのだが、総出席時間が4時間や5時間ということがザラに起きた。
課長向けの会議で合意した内容を部長向け会議で合意し、市長向け会議へ上奏するといった感じ。
オブザーバーというか、事務方のアドバイザー(助け舟係)として出席すると、課長級の手前でのカンニングペーパー作成に始まり(これも会議)、市長向けまで、半日以上拘束されることになる。
その間、150円ペンでメモを取ったり、回したりするのがだんだん苦痛になってきた。
会議への出席もそうだが、指が痛くなってきたのだ。
そこでネットで調べた2,000円クラスのゲルインキペンを購入した。
ペンが勝手に走る感覚に囚われた。
疲れが全然違うのだ。
その後、役所関連からは遠い業務に移り、手書きの文化からは遠のいてしまいその高級ペンを使うことはなくなった。
飛行機も長年エコノミークラスオンリーだった。
長距離便や家族旅行では上級クラスの料金も調べるようになった。
乗ってみると、当たり前だが、疲れの違いが全然違うからだ。
もちろん、毎回というわけにはいかないが、なるべく上級クラスを取るように心掛けている。
ちなみにペンを変えた時、写真の時と違い、字が下手なのは変わらなかった。